世界脳週間2008 熊本大学(熊本市)

日 時 2008年3月15日(土)14:00~17:00
主 催 熊本大学「世界脳週間2008」実行委員会

プログラム

講演 「ヒトのからだに見る生命の歴史―脳の進化~ヒト・人―」
児玉公道(熊本大学大学院医学薬学研究部・形態構築学分野)
展示・実演
  1. 黙って働く感覚系一平衡感覚
    (熊本大学大学院医学薬学研究部・知覚生理学分野)
  2. ブレイン・コンピュータ・コミユニケーション・システムの開発
    (熊本大学大学院自然科学研究科・医用生体工学分野)
  3. 脳を構成する細胞を顕微鏡で見てみよう
    (熊本大学発生医学研究センター・転写制御分野)
  4. 「こころ」の動揺による手のひらの発汗を測る
    (熊本大学医学部・生理機能検査学分野)

概要

Ⅰ.講演要旨「ヒトのからだに見る生命の歴史―脳の進化~ヒト・人―」

ヒトが属する霊長類は、ネズミのような原始的哺乳類から、早期に樹上生活を放棄したヒヒを除いて、多くは樹上生活者として適応していった。旧世界猿(旧大陸に生息する猿)の多くは、腕渡り(Brachiation)という移動形式を採った。この中のあるものがヒトの祖先であると考えられているが、樹上生活の時代に獲得した能力には、体軸に対して直角に位置している頭、それによる立体視できる眼、自由な上肢などがある。約500万年前完全な樹上生活者になりきれなかったわれわれの祖先達は、追い立てられるように樹上から草原に押し出されたと考えられる。それは上肢の機能が腕渡りだけに収斂せず、多様な機能を生み出した結果、樹上生活者としては落ちこぼれていったとも考えられる。
樹上生活時代上肢が腕渡りに徹することなくかなり自由な運動をし、反面下肢だけで歩く機会がかなり頻繁に行われていたと考えられる。ヒトの上肢で類人猿と異なるところは、長母指屈筋が他の深指屈筋と分離し単独の筋を作っていることと、短母指伸筋がある点で、親指を反り返しながら末節骨を屈曲させることはヒトにしかできない。つまりものを親指とその他の指でしっかり掴むことができる。この運動は掴まりながら離す動作の腕渡りにはかえって不便である。こうした状態で草原に追い出されたわれわれの祖先は、後肢で立ち自由になった手で道具や武器を作り出したのである。このように、鰭から出発した四肢発達は、直立2足歩行によって上肢と下肢の機能分化を生み出したが、これが脳の発達を促す結果になったと同時に、脳の発達を可能にする形態学的根拠にもなった。すなわち脊柱が水平位でその先に頭があると、おのずから発達の限界がある。脊柱が垂直であればその上に置くものは、バランスさえとればかなり重く大きなものを乗せることが可能であるからだ。この結果、脳が発達する可能性は開かれたが、脳そのものが発達するには、受容器-神経ー効果器の一連の発達によらなければならない。 この過程は同時に系統発生における脳発達化(Cephalization)の歴史であり、高等動物(哺乳類)では一層の終脳化( Telencephalization)が図られ、ヒトはその極地に位置することとなる。すなわち、直立して鼻が地面から離れることにより、喚覚が退縮(貧嗅覚動物 Microsmata) 傾向になるのとは引換に、喚脳の場である終脳は巨大な大脳半球へと発展した。ここでは“意図する運動”や理性および記憶・理解、といった高次の生命活動を司っているのである。一方、樹上生活で獲得した視覚の発達は間脳の発育を促して、食欲・睡眠・情動などの生理的機能を飛躍させた。この両者が協調してヒト・人としての証である“理陛ある情動”を獲得したのである。
脳を持たない脊椎動物の元祖ナメクジウオからヒトまでの系統発生を辿りながら、脳の進化を考え人はいかに生きるべきかを考察する。

Ⅱ.展示・実演の概要

  1. 黙って働く感覚系一平衡感覚
    平衡惑覚は普段意識しない感覚ですが、体の響制御や視線の安定化など、重要な機能を担っています。実演を通して平衡感覚について学びます。
  2. ブレイン・コンピュータ・コミュニケーション・システムの開発
    重度ALS患者のようにほとんどの運動が不可能となってしまうにも拘らず、感覚共認知は正常であるような方々の意思伝達を実現するために、脳波を利用したインタフェイスを開発しています。現在、4つの中から1つを選ぶことに成功しており、それを演示します。
  3. 脳を構成する細胞を顕微鏡で見てみよう
    哺乳類の脳は、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの3種類の細胞で主に構成されています。これらは、「神経幹細胞」と呼ばれる共通の前駆細胞(もとになる細胞)ら出来ます。その仕組みを研究することで、脳がどのように形成されるのか、神経疾患の原因は何なのか、どうすれば治療できるのか、を知る手掛かりを得ることができます。この展示では実際に研究で用いられる手法でこれらの細胞を可視化して観察します。
  4. 「こころ」の動揺による手のひらの発汗を測る
    ドキッとすると私たちの手のひらや足の裏に汗が出ます。この現象は精神的発汗と呼ばれます。精神的緊張、情緒的動揺を引き起こす感覚刺激や暗算・思考などによって誘発され、大脳が関係していると考えられています。この展示では、発汗計を使って、実際に「こころ」の動揺による発汗を測ります。また、出た汗を可視化する方法を使って、手のひらの汗腺の分布を見ます。